森林と二酸化炭素、 その誤解を解く (3)

京都議定書の理念と「地球温暖化対策推進大綱」
「地球温暖化対策推進大綱」に基づいて、間伐等が推進されてきた。ここで、国際合意に基づく政策の推進と炭素吸収に関する森林の働きの科学的事実の混同が、多くの誤解を生んでいる。京都議定書の第1約束期間(2008~2012年)は終了し、わが国は責務を達成しているが、次の段階はかなり厳しくなることが予想される。

1.気候変動枠組条約と京都議定書
 人間活動によって大気中の温室効果ガスの濃度が増加し、地球全体の地表及び大気の温度が歴史的な変動より速い速度で上昇し、自然の生態系及び人間の生活環境に悪影響を及ぼすことが心配されたことから、気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change , UNFCCC)が1992 年5 月9 日にニューヨークで採択された。日本は、同年6月の国際連合環境開発会議で署名、1993 年5 月に受諾した。その後、1994年3 月に条約が発効したが、具体的な温室効果ガスの削減方法は、1997 年12 月の第3回締約国会議(UNFCCC COP3)で採択された「京都議定書」で定められた。森林との関係については、吸収源の取り扱いを定めた3条3項と4項に規定されている。

  • 京都議定書では、対象ガスをCO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6 の6種類として、
  • 1990年以降の新規の植林、再植林及び森林減少に係る排出及び吸収を限定的に考慮する。
  • 目標期間:2008~2012年(平成20年~24年)の5年間を第1約束期間とする。
  • 日本の排出削減目標:6%(1990年の数値に対して)、
    と定められた。

ここで問題となったのは、基準年(1990年)に対する増減を見るということであって、二酸化炭素排出・吸収量の絶対値ではなく、人口比、経済力比でもないということである。
 学校での成績に例えれば、これまでの試験の総得点を無視して、期末試験と中間試験の点数の差を最終成績にする。中間試験の点数が20点の者は期末試験を頑張って80点とすることが可能である、中間試験で95点を得ていれば、期末試験で満点を取っても最終成績が5点になるということである。
 吸収源としての森林については、新規植林と再植林で増やした森林面積が得点となるので、1990年以前に森林を大きく減らした国は得点できる可能性が大きく、日本のように森林をぎりぎりまで残している国は点数を得ることができない
 この問題に対処するための手段が3条4項の「 追加的人為的活動」である。科学的及び技術的助言のための補助機関会合や締約国会議で議論されたものの、米国の離脱、日本の抵抗などで難航してきたが、COP6再開会合、COP7を経て、「マラケシュ合意」として政治的に決着した。

マラケシュ合意に基づき、平成 14 年3 月、地球温暖化対策推進本部は、我が国の森林経営によって、1,300 万炭素トン程度の吸収量の確保を目標とする地球温暖化対策推進大綱を決定、実行に移した。

7. 温室効果ガス吸収源対策の推進
(1) 森林・林業対策の推進\r\n森林・林業基本法に基づき2001 年10 月に閣議決定された森林・林業基本計画に示された森林の有する多面的機能の発揮に関する目標と林産物の供給及び利用に関する目標どおりに計画が達成された場合、京都議定書第3条3及び4の対象森林全体で、森林経営による獲得吸収量の上限値(対基準年総排出量比3.9%、4,767 万t-CO2)程度の吸収量を確保することが可能と推計される。
 上記は森林・林業基本計画に基づく試算であり、今後、算定方法等について精査、検討が必要である。また、現状程度の水準で森林整備、木材供給、利用等が推移した場合は、確保できる吸収量は対基準年排出量比3. 9%を大幅に下回るおそれがある。吸収量の確保は、政府はもとより、森林所有者、林業及び木材産業の事業者、更には地方公共団体や森林及び林業に関する団体を含め、関係者全体による多大な努力が必要である国民的課題であり、森林・林業基本計画の目標達成に必要な森林整備、木材供給、木材の有効利用等を着実かつ総合的に実施することが不可欠である。
 わが国に必要な吸収量を確保するため、以下に示す施策を強力に推進するとともに、吸収量の報告・検証体制の強化を図る。

① 健全な森林の整備
 ア 森林の機能区分に応じた、複層林化、広葉樹の導入等を含む多様な森林整備の展開
 イ 緊急に除間伐等の保育の実施が必要な森林において、必要な施業を推進
 ウ 伐採後の更新(再造林)、下刈等の推進
 エ 無立木地、荒廃地、自然災害を受けた森林、耕作放棄地等において、植林、保育等を推進(以下略)
 上記、ア、イ の施業は、本来、炭素固定・吸収量を一時的に減少させる。

 先に述べたように、日本の森林は二酸化炭素を吸収してきた、この森林に対して間伐等の手入れを行うことは吸収量を減らす行為である(科学的事実)。ところが、その吸収量は京都議定書に基づく日本国の二酸化炭素削減義務である1990年比6%には勘定されない。手入れを行った森林が吸収する量のみを削減量として勘定するということである(政治的合意)。
 この政治的合意の背景には、日本の森林が健全な状態で保全され、蓄積を増やしているにも関わらず、十分に利用されていない。そして、自国で必要とする木材資源は外国から輸入し、結果的に世界の森林減少に手を貸しているという見方がある。例えば、自然保護団体のWWFが EUROPEAN FOREST SCORECARDS 2000 という調査で、ヨーロッパ諸国の森林の現状と政策を99の要素で採点している。その中の一つに:

要素 1.8 各国の収穫可能量に対する年間収穫レベル
 4点: 平均年収穫レベルは、収穫可能量の70%以上で、100%を超えない。
 3点: 平均年収穫レベルは、収穫可能量の60~69%。
 2点: 平均年収穫レベルは、収穫可能量の50~59%。
 1点: 平均年収穫レベルは、収穫可能量の40~49%。
 0点: 平均年収穫レベルは、収穫可能量の40%未満、又は100%を超える。
(上記には収穫可能量の精度と、伝統に基づく森林測定の精度も含まれる)
 この採点要素では、オーストリア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スウェーデン、スイス、トルコが満点の4、東欧諸国とスペイン、イギリスが2点となっている。もし、日本を採点すれば0点のはずだ(収穫可能量の40%未満しか収穫していない)。


まとめ
気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書に基づく二酸化炭素排出量の削減義務の実行にあたって、マラケシュ合意(2001)によって、放置状態にあった森林に手入れを行うことで吸収量を算定できるルールが認められた。この措置は、必ずしも森林の吸収量を増加させることにはならないが、地球規模で見た場合には森林減少・劣化を防ぎ、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑える働きがある。さらに、我が国の森林の健全性の向上、林業・木材産業の発展、山村振興に大きく寄与することから、極めて優れた取り決めと言える。

森林と二酸化炭素、 その誤解を解く (2)

「二酸化炭素吸収量を増加させる」には以下の方法が有効である、との誤解がウェブ上に氾濫している。しかし、それは事実ではなく、どの国でも推奨されていない。京都議定書に関係した取り決めから誤解が生じているようなので、別に説明する。
 A. 森林を若返らせる
 B. 森林を間伐する
 C. 天然林を人工林に転換する

A. 森林を若返らせる
「若い森林は吸収量が多い」とか、「成熟した森林は収支が0になり、それ以上は吸収しない」というのは事実である。下図に模式化した成長曲線を示す。

図3.森林成長の模式図

図3.によれば、森林の総生産量は、ある林齢で最大となった後にやや減少・一定になる。全呼吸量と枯死量の増加傾向は止まらないため、純生産量(総生産量-全呼吸量)は限りなく0に近づく。ここで気を付けなければならないのは、上図のA、B、D、Eは年あたりの量、すなわち、速度を示していることである。その林齢での量を示しているのはC(材の現存量、材の呼吸・分解量)だけである。曲線Cはいずれ水平もしくは波状になるであろうが、0にはならない。
 バイオマス中の炭素量は曲線Cの1/2に相当するから、頭打ちになるが、AとDの差が土壌中の炭素量として蓄積される。森林を若返らせるということは、曲線C上の位置を左側に戻すということであるから、林分現存量が減少する。したがって、大地に固定されている炭素量を減らすことになり、大気中の二酸化炭素濃度を上昇させる結果となる。

図4.高齢林の意義

速度と量の関係を図4.に示す。1年あたりの二酸化炭素吸収量は若い森林の方が高齢林より多い。その効果は大気中の炭素量(二酸化炭素濃度)を減少させる速度が速くなるということであり、いくら減らせるかという量に関しては蓄積量の多い高齢林には及ばない

B. 森林を間伐する
森林の間伐とは、面積あたりの葉量を減らすことである。図3.の曲線Aの左にあるピークに近い位置から左下に戻すことにあたる。当然、総蓄積量と年間成長量の両方が減少する。「成長が速くなる」ことは決してない。増えるのは、残された個体の成長量林分成長速度の増加率である。
 造林学の教科書に書いてあるように、間伐とは林分全体の成長量をより少ない個体数に再配分して、残した個体の成長量を増やす手段である。それは、林分全体の成長量とのトレードオフでもある。だから、バイオマス生産のための森林施業では間伐を行わない。

C. 天然林を人工林に転換する

表1.森林の樹種別炭素吸収量

ここに示した表が独り歩きして、広葉樹林よりヒノキ林が、ヒノキ林よりスギ林の方が炭素吸収量が多いと誤解されている。同じ場所で、樹種を変えても、閉鎖林分であれば、バイオマス生産量はほぼ一定であるというのが、造林学、植物生態学の常識である。
 表1.に関して、数値そのものは間違いではない
 その根拠となった数値そのものは正しい。我が国の森林の林齢別の平均的な林分材積を用いて、1ha当たりの炭素吸収(固定)量を計算すると表の数値が得られる。ただ、この表の見出しが誤解を生む。表の注釈に書いてあるように、「炭素吸収量は、同じ樹種であっても地域、立地環境等の要因により異なり、本表の値はあくまでも平均的な値」という事実を忘れてはならない。

誤解を生じない表現に直すと以下のようになる。

表2.森林の立地別炭素吸収量

少し古い造林学の教科書を紐解くと、適地・適木の例示として、山腹斜面の上から、アカマツ、ヒノキ、スギを配置した図が示されている。土壌が厚く、養分・水分に富んだ斜面下部にはスギを植え、その上部にはヒノキ、ヒノキも育ちにくいやせ地にはアカマツを、投資効果が見込めない場所は広葉樹(自然林)のまま放置するのが原則。

  • 全国平均の生産性は            スギ林 > ヒノキ林 > 広葉樹林
  • 材積生産量は材の容積密度(比重)に反比例 スギ > ヒノキ > 多くの広葉樹
  • 乾物(重量)生産量は立地(地位)による  スギ = ヒノキ = 多くの広葉樹
  • 地位の高い場所にスギを植え、 最も地位が低い場所には植林しない
図5.同一立地のスダジイ林とヒノキ林の生産性

図5は、ほぼ同一の立地条件下に隣接して成林したヒノキ人工林、スダジイ自然林、中間の混交林の測定結果である。

  • 材積生産を比較すると、ヒノキ林の総材積はスダジイ林の約1.4倍になる。ヒノキの方が材の容積密度が小さいためである。これは、木材生産のために針葉樹を植林する理由でもある。
  • 幹の乾燥重量で比較するとスダジイ林の方が多く、ヒノキ林の約1.09倍になる。容積密度の当てはめ誤差を考慮すると、差が無いというべきだろう。あるいは、樹種間競争の結果として生き残る樹種の生産性が最も高いという、当然の結果かもしれない。

引用した図表
図3  堤利夫(編):森林生態学、p.79 図3.26、朝倉書店、1989.
図4 垰田宏:森林生態系と森林管理、p.31 図2-19、日本森林技術協会、2012.\
図5 垰田宏:第4章 植生管理による炭素貯留方策、p.94 図4-1-4、藤森隆郎(監)陸上生態系による温暖化防止戦略、博友社、2000.
表1 (独)森林総合研究所 温暖化対応推進拠点 、森林による炭素吸収量をどのように捉える(http://www.ffpri.affrc.go.jp/research/dept/22climate/kyuushuuryou/documents/page1-4-per-year.pdf)

森林と二酸化炭素、 その誤解を解く (1)

IPCCの第5次統合報告書(AR5, Synthesis Report)が2014年11月2日に公表され、地球温暖化の現状がかなり明瞭になってきた。京都議定書に第一約束期間が終了し、次の段階に入ろうとしている。残念ながら、森林と地球温暖化・温室効果ガスとの関係については、かなり誤解が多いようだ。

よくある誤解とは、以下のようなことがら:

  1. 森林は化石燃料由来の二酸化炭素を吸収する
  2. 二酸化炭素吸収量を増加させるため方法
    1. 森林を若返らせる
    2. 森林を間伐する
    3. 天然林を人工林に転換する

上記は、いずれも間違いである。森林の「二酸化炭素吸収」機能を積極的に評価しようとする立場の人、機能を認めようとしない立場の人、双方が間違っているから、議論がかみ合わない。
 私は、京都議定書の前後から、この問題に少なからず関わってきた。もちろん、気候変動に対する森林の役割を正しく評価し、森林の保全を推進する立場からである。ところが、森林吸収の本質が十分に説明されていないまま、各種の活動が推進されているため、腑に落ちないと感じている人が森林研究者の中にも少なくない。
 誤解の根本は、目的と手段の混同である。戦略と戦術の違いといっても良いだろう。人為による急激な気候変動を減らそうとするために、世界中の人々が案を出し、努力しているのだが、当面の手段を強調するあまり、本来の目的の説明がおろそかになっているのではないか。また、日本国としての行動は、全地球的立場で、各国と協調しなけらばならない。そのため、国内の森林にとっては、必ずしも有益でない事柄を優先している。

京都議定書の約束期間も終わり、新たな国際協定が模索されていることを踏まえ、問題点を整理してみた。科学的根拠はIPCC、政策的根拠はUNFCCの文書に基づく。


1.森林は化石燃料由来の二酸化炭素を吸収するという誤解
 まず、何が何を吸収する/させるのか、という点で大きな間違いがある。
「森林は二酸化炭素を吸収する/しない」という議論は全くおかしい。「森林吸収」という語句は略称であって、樹木の集合体である「森林」が光合成と呼吸の収支として「吸収」するということは誰も求めていないのだ。IPCCの報告書をきちんと読んでみよう。
 多くの図は、二酸化炭素が増大しているという動的な傾向を示している。しかし、現在の「高濃度」とは、限られた存在である炭素が、大気圏と地表(海洋を含む)との間で、どのような配分で存在しているかという、静的な状態である。

図1.大気中の人為起源二酸化炭素の内訳

図1.に大気中の人為起源二酸化炭素が増加している様子が示してある。このような図では、右肩上がりの増加やその傾斜(増加率)に目が行きがちであるが、本質はグラフの着色部の面積である。つまり、灰色部は化石燃料の消費とセメント生産、黄褐色部は森林減少(土地利用の変化)によって、放出された炭素量である。1750年から1970年までの累計を見ると、化石燃料より森林減少の方が多い。2000年以降は森林減少に歯止めがかかっているから寄与率が減少しているものの、1750年頃からの累計では約3 分の1 が森林減少によるものである。

図2.大気/大地間の炭素配置の変化が大気中の二酸化炭素濃度を定める

現在の二酸化炭素濃度が高い原因の約3分の1は森林面積の減少によって、バイオマスと土壌中に貯えられてきた炭素が分解・燃焼されて大気中に放出された結果である。残った森林が光合成によって、大気中の二酸化炭素を固定するとき、かつて森林生態系に固定されていた量以上の炭素を吸収・固定すろことはできない。

森林が吸収すべき二酸化炭素は 「森林減少」により放出された部分のみ 「化石燃料とセメント生産」に由来する炭素を吸収する責任も、能力もない。
 「土地利用の変化」と「森林減少」が同義語のように扱われているのは、森林とそれ以外の土地利用(草地、耕作地、市街地)とで、面積当たりの炭素貯留量が圧倒的に異なるからである。森林生態系の特徴はバイオマス量が多いというだけでなく、土壌中に固定された有機炭素量が地上部の3~5倍、又はそれ以上に存在する。そのため、極相・原生林と呼ばれる高齢林が伐採されて、他の土地利用に転換された時の炭素放出量は大きい(条件によって違いがあっても、20年で全部が放出されるという計算をする約束になっている)。

大気中の二酸化炭素濃度を減少させるには、大気-大地間のバランスを変え、大地に固定されている炭素量を増やすことが必要となる。
 ここで、森林生態系による炭素固定量 = 土地面積当たりの炭素貯留量 × 森林面積 である、土地面積当たりの炭素吸収量 では決してない。面積当たりの炭素貯留量が多いのは、最も高齢の森林、つまり極相の森林であることは言うまでもない。地上部のみであれば、枯死木が発生する直前の高齢林の方が多いが、土壌炭素の蓄積は枯死木発生後も継続するので、生態系としての貯留量は林齢と共にいつまでも増加する。

結論 その1:
化石燃料由来の二酸化炭素を森林に吸収させることはできない。大気中の二酸化炭素濃度を減少させるには、(極相あるいは原生林と呼ばれるような)現存量と土壌炭素の多い高齢林を保全することが必要。

その(2) へ


(出典) IPCC, 2013: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.
 p.470の6.1.1.1 & 6.1.2.1 Carbon Dioxide and the Global Carbon Cycle あたりを参照。