天然記念物のデータ更新

(2017-03-17 の再掲載)
3月15日付の中国新聞、地域ページ[尾三]に、「世羅の長寿ツバキ枯死」という記事があり、「県天然記念物」解除へという副題がつけられていた。この手の情報は早めに反映させておかないと忘れてしまうので、本編のヤブツバキの頁を更新した。記事更新の前に、ヤブツバキの名が総索引から漏れていたので、追加した。

新聞記事には「長寿ツバキ」とあったが、広島県指定天然記念物の名は山中福田のツバキ」(やまなかふくだのつばき、昭和53年10月4日指定)となっている。地元では、「長寿ツバキ」と別の名で呼んでいたのか。
 記事中に「老衰や有害なコケなどが原因」とあるが、そのような原因はあり得ない。腐朽菌が入って子実体が出てきているのをコケと見たのだろうか、ウメノキゴケなどの地衣類が樹皮上に生育しているのであれば衰退原因ではない。「樹皮」という死んだ組織に着生するコケ類は生きた樹木の組織から養分や水分を奪うことはない。樹が弱って、葉量が少なくなったから、陽当たりを必要とするコケが増えただけであろう。登録樹木医に見せれば正しい診断をするはず。
 「新野生4」に準拠して、アオイ科を見直した。ここでも天然記念物のデータ更新があった。三原市指定天然記念物「莇原のシナノキ」が同定違いでマンシュウボダイジュであったことから名称が変更された。三原市のウェブサイトには天然記念物の頁がないが、広報誌の中に言及がある。当然、シナノキからマンシュウボダイジュの位置に移した。
 県指定の大元のぼだいじゅも同定違いで、マンシュウボダイジュである。こちらは、庄原市の記念物(東城地域)のページにマンシュウボダイジュであることが記述されているが、名称変更はされていない。「大元のぼだいじゅ」というのは固有名であって植物の種名ではないので、この措置は適切である。

中国山地の林業 その2

(2016-04-11 の再掲載)
中国新聞の特集記事、中国山地 第5部 なるか林業再興 5回(4月8日)で終了してしまった。先に、感想を書いたので、続きを試みる。

最終回は、林野庁の「緑の雇用」事業による参入と、起業した若者の紹介であり、将来が明るくなったとの論調で終わっている。現状を嘆くだけでなく、先へ進もうという心意気が感じられる良い記事だ。
改めて、全体を振り返ると、

  • 人工林が伐り時になった
  • バイオマス発電で木質チップが脚光を浴びる
  • 地主の高齢化、不在地主の問題
  • 植林が進まない
  • 若者が増加してきた

第2回と5回は光の、3、4回は陰の部分を強調している。高齢化そのものは対策不能であるが、提言があっても良かったのではないか。林業だけでなく、社会そのものの問題だから、マスコミの出番だろう。所有の自覚がない、所有者が不明という状態が存在し、なお、地権者の所有権が突然に浮上するというのでは法治でなく放置国家。一昨年の土砂災害の復旧事業でも言われたことだ。
 保安林制度についての説明が必要だ。法律の文言は「指定」だが、地権者の同意によって成り立つ「契約」ともいえる。保安林指定による利益のみを享受して、植栽義務を果たさない場合、あるいは、固定資産税を納めない(地権者不明)ばあいは、躊躇なく物納させ、公有化、または意欲のある森林経営者に売るべきだろう。
 植林未済地の増加問題は九州から顕著になったと聞く。これは、伐採・収穫と更新(植栽など)を分けるから生じる。林業のサイクルを、植栽から始まり伐採に終わると捉えるのでななく、伐採から始まり成林に終わると見るべきだ。つまり、伐採と植栽は切り離せないようにする。すでに、九州営林局・北海道営林局の国有林では伐採と植栽を一つにまとめて請負契約の入札を行っている。これは、受注側にも大きなメリットがある。普通、伐採時には作業道を整備して車両が林地まで入れるようにするわけだが、放置すれはすぐに荒れて、使えなくなる。伐採時に使用した機械を使って、地拵え(林地の整理)を行い、苗木を運搬することができる。第4回記事の写真を見れば、植栽に手間がかかることが分かるはずだ。
 今後の造林樹種の選定、シカの食害については何も触れられなかった。
 同じ中国新聞による「中国山地 第5部 森と里と人」という特集記事が2002年6・7月に連載されている。林業に関しては、以前の特集記事の方が具体的であったような気がする。14年の差を比較してみたいものだ。

中国山地の林業

(2016-04-03 の再掲載)
本日の中国新聞に「中国山地 なるか林業再興」と題した特集記事、関連記事があった。「中国山地」の第5部の1だから、続きがあるのだろう。ただ、機(木)が熟して万々歳なのか、お先真っ暗なのか、読んでも良く解らない。
 実りの時期を迎えつつある、という表現は、10から20年前の話だろう。県内の市町村のいくつかが、主伐と更新に補助金を出すようになったとの旧聞を思い出す。
 郷里へ戻ってすぐ、高名な指導林家を訪ねて、広島の林業の課題について尋ねたことがある。特に解決を要する問題点は無いとのことであった。確かに、当然やるべき事をやる、それ以上のことは不要である。
 ところが、やるべきことができていない林地(所有者というべきか)が少なくないのも事実である。ひと頃は、高性能機械による効率化で、伐採・収穫の低コスト化が推進されてきたが、うまく進んでいない。今度は、自伐林業という標語で、小規模な伐採が推奨されている。根本的な問題は、「まとまった金が要る時は木を売ればいい」という発想であって、これを変えない限り、林業が産業には成り得ない。
 主伐と間伐の区別、間伐の意味が解っていないようだ。「区域を決めて木を全て伐採する」のが主伐ではない。それは、「皆伐」であって、主伐のひとつの形態に過ぎない。主伐の定義は「更新を伴う伐採」である。周囲の木より大きいものを伐採して、立木本数を減らしたならば「間伐」、切った跡に次代となる苗木を植えるか、自生の幼木を助けて、本数を維持、増加させたならば「主伐」。畑のナスを収穫するように、大きくなったものから順に伐っていけば「択伐」であり、択伐の跡に植栽する方法もある。ただし、択伐による「非皆伐更新」がうまくいく場所は、一部のヒノキ林など、限られているのではないか。中部地方の亜高山帯に見られるシラベの縞枯れ更新が良いお手本になる。スギ林では難しい。

生物多様性の維持という観点からは、人工林・天然林を問わず、「皆伐」が殆どなされていないことが現代日本の森林に関する最大の問題。一時期は多すぎたのだが、少なくとも全森林面積の100分の1位は日当たりのよい草地が必要である。造林した苗木にとっても、下刈りを強制される人間にとっても、つらい期間であるが、このときだけ生育できる植物、昆虫などが存在しているからだ。

西部の山地はスギの適地、良い種苗を用いたスギ植林ならば花粉量は少ない

行政が介入するとすれば、地域区分を明確にして、土地条件にふさわしい森林へ誘導しなければならない。大雑把にいえば、雨量の多い芸北山地はスギ林業の適地であって、高い生産性を維持することができる場所が多い。備北山地でスギ林に適した場所は多くない。ヒノキの適地も少ないのではないか。

ヒノキは雨量が少ない地域でも育つが、急傾斜地のヒノキ林は落葉が堆積し難く、問題がある

かつての、たたら製鉄や都市エネルギーの供給原であった、薪炭林の跡地が広大なミズナラ、コナラ、アベマキなどの広葉樹林になっている。バイオマス発電向きの資源ではあるが、安定した供給体制を構築するには相当の困難があるだろう。吉備高原面と南部の低山については、アカマツ林以上の生産性を持つ森林は考えに くい。少しの松くい虫対策で優良林分となれる場所が少なくない。それ以外の場所は放置するに限る。言葉を変えれば「自然の推移に任せる」ということ。

ブナ帯の二次林、アカマツ-ミズナラ林、バイオマス資源としては優良、一部は用材にもなる

スギ、ヒノキの価格の低迷を「木材輸入の自由化の影響」とか、「低価格の外材に押されて」という決まり文句はやめて欲しい。外材が安い理由は労働生産性が日本の何倍にもなるから、国産材が売れないのは価格のせいではない。関係者は皆、よく知っているはずなのに。

天然記念物の指定解除

(2016-03-15 の再掲載)
本日の中国新聞紙上に、「世羅のウラジロガシ」と「原田のエノキ」が枯死、県指定天然記念物指定解除となったとの記事があったので、本編の該当部分を訂正した。

原田のエノキは2011年と2012年に写真を撮影し、昨年6月には枯死しているのを確認していた。
 新聞記事では、2004年9月の台風で枝が折れたのが衰弱の原因のように書かれている。しかし、これは原因と結果の取り違えではないか。材に腐れが入っていたから、台風で折れたのだろう。 生育場所は平坦地で地下水位が高い。根系が酸素不足で枯死し、腐朽菌が侵入していたと思われる。エノキは踏みつけ耐性はあるが、過湿には強くない。里程木のように、盛土に植えられていればもう少し長生きしたかもしれない。ただ、市教委による推定樹齢400年というのは、多くの樹木にとって、ひとつの限界年齢である。

ありし日の原田のエノキ(2012年7月) 主幹が失われ、枝が支えられている

スギ花粉を少なくする

晴れが続くとスギ花粉の影響が出る。2月下旬からアレルギーを抑える内服薬を服用しているのだが、効果が良く分からない。薬を服用するのを止めて見ても、薬効が無くなったのか、花粉の量が多かったのか、区別できないからだ。
 花粉さえなければ発症しないのは確か。この時期に奄美・沖縄や小笠原に行くと、3日目くらいには完全に症状が消え、戻ったときにはすぐに発症する。羽田空港の上空の「もや」が目に入ったと同時にくしゃみが出たこともある。広島は、芸北地域を除いて、スギが少ないので大したことはないだろうと思っていたが、やはり、この時期には症状が出るので薬とマスクは欠かせない。

多数の雄花を着けたスギ

3月1日の中国新聞6面の[広場]に「少花粉スギの普及急務」という大きな見出しの記事が載った。編集員の杉本氏による記名記事である。内容は、スギの少花粉品種が実用化されたにもかかわらず、普及が遅れている。とりわけ、中国地方、中でも広島・島根両県の遅れが目立つという。ただ、普及しない原因と対策についての踏み込みは物足らない。県の目標がどうなっているのか、それに対する検証がどうなっているのか書かれていない。

新聞記事の翌々日に、日本森林学会から、「花粉症研究最前線」を特集した「森林科学」の73号が届いた。最近の研究性が要領よくまとめられているので、要点を紹介し、広島県の問題点を考察する。

「花粉症研究最前線」の要点

  1. スギ花粉症に関わる国民の経済的負担は、1998 年で2,860 億円と推定、約1 兆円との説もある
  2. 花粉飛散情報は高度化し、一部の地域では詳細な予報がなされている
    • 36年間の継続観察によれば、最近の10年は、以前の約2倍
    • ヒノキ、ブナ、ハンノキ、マツ、イネ科についても実施
  3. 抗ヒスタミン剤の開発・改良、減感作療法の研究
    • アレルギー患者を対象とするため、アナフィラキシー誘発\r\nの危険性の無い治療ワクチンが必要であり、まだ完成していない
    • 減感作療法効果のあるコメの品種も作出されている
  4. 花粉発生源対策としての森林管理(間伐等)
    • 雄花の豊凶に合わせるなどの工夫が必要
  5. 無花粉スギや少花粉スギなどの花粉症対策品種の開発n
    • 「少花粉スギ」の苗はすでに各地域で普及
    • 7 県(富山、青森、福島、新潟、茨城、神奈川、三重)から多様な無花粉スギが選抜されている
    • 無花粉スギには種子ができないので、挿し木繁殖するのだが、単一クローンの一斉植栽は避けたい
    •  「立山 森の輝き」はF1雑種だから、種子で供給できる
    • 遺伝子組み換えによる無花粉スギも作出されている

広島県のスギ林の現状
広島県の森林については「林務関係行政資料」に要領良くまとめられているので、最新の平成24年度版をひも解く:

  • 広島県の森林面積 611,893ha のうち、民有林が563,180ha(92.04%相当)
  • スギ林は48,152ha(民有林の8.55%相当)
  • H18~22年のスギ人工造林の実績は42ha、年平均8.4ha\r\n(ヒノキは、それぞれ、158,5ha、317ha)
  • H18~22年のスギ山行苗需要は134,000本、年平均26,800本、\r\n同期間の生産量は 93,000本、年平均18,600本で大幅に不足

前記の新聞記事による広島県の少花粉スギ苗生産計画、2014~16年度 0本、2017年度1,200本、2018年度 2,100本は如何にも少ない。1haあたり2,000本位は必要である。
 もっと問題なのは、スギ人工造林実績が平均8.4ha しかないという点である。スギ人工林の標準的な伐採年数は40~50年であるが、長期化傾向を勘案して60年としても、毎年800haは伐採・収穫する必要がある。そうでなければ、森林の生態系を適切に維持することはできない。何故か、間伐ばかり強調され、「~間伐材を利用して~」という文言を良く目にする。間伐は植栽を伴わないので、樹種・品種の更改には結びつかない。一時的に草原状態を作り出す皆伐(主伐の一種)がほとんど無くなったことが、地域の生物多様性に悪い影響を及ぼしていることも考えるべきであろう。

念のために付け加えると、既に作出された少花粉・無花粉スギで現在のスギ林を置き替えることには慎重であるべき、というのが私の持論。少花粉品種について、既存のスギに比べて花粉量が**%というときの「既存のスギ」が問題であって、きちんと選抜された推奨品種による「育種苗」か、苗木不足の時代にいい加減に作られた「多花粉・多種子」品種なのかを確かめる必要がある。本来の手続きによって選ばれ、育成された苗木であれば、それ程多くの雄花を着けることはないはずだ。

三保の松原

 昨日、富士山が世界遺産に登録決定、静岡県の三保の松原も含まれることとなった。本日のニュースでは、逆転劇を生んだ日本のロビー活動が紹介されている。地域のつながりを広く捉えるという考え方が各国に理解され、賛同意見を得たということが嬉しい。

三保の松原は、マツ林の保護活動でも良い手本となっている。地元の住民のマツを守るという意識が極めて高く、マツ枯れ対策のための薬剤防除を、有害と知りつつ受け入れているからだ。下の写真は、1991年10月に訪れた際に撮影した。数百年を超えるような大樹は多くないが、若い後継樹が多数見られる。林床に過剰に貯まった落葉を取り除き、土壌を貧栄養の状態に維持すれば、後継となるマツはいくらでも生えてくる。もちろん、広葉樹林に誘導するためには落葉を貯める方が良いのだが、潮風を常に受ける砂丘海岸に広葉樹の防風林は成立しない。

後継樹が多いマツ林の内部

ここでは、2005年までマツノマダラカミキリ防除のための薬剤がヘリコプターで散布されていた(空中散布)。薬剤散布は病原体の媒介をするマツノマダラカミキリを抑えるのには有効であるが、人間を含む他の生物にとっても有害である。この事実を行政と住民の双方が認識し、被害を最小限に、効果を最大限にする協力をしていた。その内容は、実に単純、明快。マツ枯れ防止の講演会などでは度々紹介させていただいた。

 最近の様子を調べると、静岡市の「名勝三保松原保全育成事業の現況」があった。これによると、空中散布を止めてから急激に枯れが進行したものの、2007年をピークに抑え込んでいる。枯れ木・枯れ枝の除去と消毒(殺虫)を徹底し、予防薬剤の樹幹注入対象を増やしたそうだ。樹幹注入剤は樹体内に侵入した病原体のマツノザイセンチュウが増殖するのを抑制するもので、外界への影響はほとんど無い代わり、マツそのものに負担がかかる。
 三保の松原といえば「羽衣の松」。「なるほど、あの枝に羽衣を掛けたのか!」と言わしめるほど立派な枝ぶりであったが、その枝が枯れていた。ただし、腐朽菌によるもので、材線虫病ではないと診断された。市(当時は清水市)の観光課の話では、「羽衣の松の樹齢が伝説の年代に合わない」という「無粋な苦情」が年に数件あるとのこと。
 「羽衣の松」の伝統は、ある秘策によって永久に守られる。ただ、秘策は公開できないから秘策。と思っていたら、既に公開されていた(平成22年10月)「三保「羽衣の松」が世代交代しました! ‐ 静岡市」と。紹介ビデオ「三保羽衣の松 世代交代」にあるように、姿かたちの良い多数の候補から、厳しく選抜された結果、決して世襲ではない。