中国山地の林業

(2016-04-03 の再掲載)
本日の中国新聞に「中国山地 なるか林業再興」と題した特集記事、関連記事があった。「中国山地」の第5部の1だから、続きがあるのだろう。ただ、機(木)が熟して万々歳なのか、お先真っ暗なのか、読んでも良く解らない。
 実りの時期を迎えつつある、という表現は、10から20年前の話だろう。県内の市町村のいくつかが、主伐と更新に補助金を出すようになったとの旧聞を思い出す。
 郷里へ戻ってすぐ、高名な指導林家を訪ねて、広島の林業の課題について尋ねたことがある。特に解決を要する問題点は無いとのことであった。確かに、当然やるべき事をやる、それ以上のことは不要である。
 ところが、やるべきことができていない林地(所有者というべきか)が少なくないのも事実である。ひと頃は、高性能機械による効率化で、伐採・収穫の低コスト化が推進されてきたが、うまく進んでいない。今度は、自伐林業という標語で、小規模な伐採が推奨されている。根本的な問題は、「まとまった金が要る時は木を売ればいい」という発想であって、これを変えない限り、林業が産業には成り得ない。
 主伐と間伐の区別、間伐の意味が解っていないようだ。「区域を決めて木を全て伐採する」のが主伐ではない。それは、「皆伐」であって、主伐のひとつの形態に過ぎない。主伐の定義は「更新を伴う伐採」である。周囲の木より大きいものを伐採して、立木本数を減らしたならば「間伐」、切った跡に次代となる苗木を植えるか、自生の幼木を助けて、本数を維持、増加させたならば「主伐」。畑のナスを収穫するように、大きくなったものから順に伐っていけば「択伐」であり、択伐の跡に植栽する方法もある。ただし、択伐による「非皆伐更新」がうまくいく場所は、一部のヒノキ林など、限られているのではないか。中部地方の亜高山帯に見られるシラベの縞枯れ更新が良いお手本になる。スギ林では難しい。

生物多様性の維持という観点からは、人工林・天然林を問わず、「皆伐」が殆どなされていないことが現代日本の森林に関する最大の問題。一時期は多すぎたのだが、少なくとも全森林面積の100分の1位は日当たりのよい草地が必要である。造林した苗木にとっても、下刈りを強制される人間にとっても、つらい期間であるが、このときだけ生育できる植物、昆虫などが存在しているからだ。

西部の山地はスギの適地、良い種苗を用いたスギ植林ならば花粉量は少ない

行政が介入するとすれば、地域区分を明確にして、土地条件にふさわしい森林へ誘導しなければならない。大雑把にいえば、雨量の多い芸北山地はスギ林業の適地であって、高い生産性を維持することができる場所が多い。備北山地でスギ林に適した場所は多くない。ヒノキの適地も少ないのではないか。

ヒノキは雨量が少ない地域でも育つが、急傾斜地のヒノキ林は落葉が堆積し難く、問題がある

かつての、たたら製鉄や都市エネルギーの供給原であった、薪炭林の跡地が広大なミズナラ、コナラ、アベマキなどの広葉樹林になっている。バイオマス発電向きの資源ではあるが、安定した供給体制を構築するには相当の困難があるだろう。吉備高原面と南部の低山については、アカマツ林以上の生産性を持つ森林は考えに くい。少しの松くい虫対策で優良林分となれる場所が少なくない。それ以外の場所は放置するに限る。言葉を変えれば「自然の推移に任せる」ということ。

ブナ帯の二次林、アカマツ-ミズナラ林、バイオマス資源としては優良、一部は用材にもなる

スギ、ヒノキの価格の低迷を「木材輸入の自由化の影響」とか、「低価格の外材に押されて」という決まり文句はやめて欲しい。外材が安い理由は労働生産性が日本の何倍にもなるから、国産材が売れないのは価格のせいではない。関係者は皆、よく知っているはずなのに。

樹木の種苗移動ガイドライン

自然林の中や周縁部に樹木を植えたがる人が少なくない。広葉樹林の中に針葉樹とか、明らかな外来種ならば植えたことが判るからまだ許せるが、その地域に分布していそうな樹種を植えるのは、とんでもない自然破壊ではないだろうか。国定公園区域の中核部分にもそのような例が見受けられる。
 同じ樹種であっても地域によって遺伝的に異なる集団があるから、むやみに種苗を移動させてはならないという法律がある。林業種苗法」(昭和45年法律第89号、最終改正:平成26年法律第67号)。この法律には、以下の条文がある。これは、「健全な成長」のための規則であって、「遺伝子攪乱を防ぐ」という概念は乏しい(無い)。
(種苗の配布区域の制限)
 第二十四条  農林水産大臣は、造林の適正かつ円滑な推進を図るため特に必要があると認めるときは、農林水産省令で定めるところにより、一定の区域(外国における一定の区域を含む。)において採取され、又は育成される種苗について気候その他の自然条件からみておおむねその樹木としての生育に適すると認められる区域を配布区域として指定することができる。
 2  生産事業者及び配布事業者は、種苗につき前項の配布区域が指定されているときは、当該配布区域以外の区域を受取地として種苗を配布してはならない。ただし、林業の試験研究の用に供する場合その他特別の事情がある場合において農林水産大臣の承認を受けたときは、この限りでない。\
 具体的な「配布区域」は、昭和46年農林省告示第179号(最終改正:平成22年農林水産省告示第545号)で示され、すぎ、ひのき、あかまつ、くろまつの4樹種について、種苗の移動を制限している。

広島県の場合は、北部(旧山形郡、旧高田郡、三次市、庄原市、旧比婆郡)と南部に区分けされ、それぞれ、スギの第四区と第五区、アカマツの第三区、クロマツの第一区と第二区に分類されている。そして、北部を起源とする種苗は北部・南部で植栽することはできるが、南部を起源とする種苗は北部に持ち込むことができない。ヒノキは県内全域が第二区なので、県内の移動は可能。(県外移動については告示を参照)
 この考え方広葉樹にこそ必要なのだが、上記の告示はいわゆるネガティブリストであって、表に書かれていない樹種は移動が可能である。情報が十分でなければ、安全策として「原則移動禁止」、指定樹種のみ可能というポジティブリストであるべきと考えていた。

この度発行された「樹木の種苗移動ガイドライン」は、広葉樹を含めた主要43樹種について遺伝子攪乱を防ぐために、どの地域由来の種苗を使うのかを示したものである。もちろん、できるだけ同じ地域の種子を使うの原則であるが、入手が不可能な場合に代替できる範囲を示したものと心得るべきである。
 ブナを例にすると、広島県内に植栽する種苗は中央構造線より北側の中国地方西部、四国北部、九州北部に限る。島根県東部、四国中央部、九州中部のものは決して持ち込んではならないことが、明瞭に図示されている。
 樹種によっては情報が十分でないものがあるが、安易な種苗の持ち込みが良くない結果をもたらすであろうことは解るはずだ。

津村義彦・須山佳久(編)地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン、170頁、文一総合出版、5,500円+税

スギ花粉を少なくする

晴れが続くとスギ花粉の影響が出る。2月下旬からアレルギーを抑える内服薬を服用しているのだが、効果が良く分からない。薬を服用するのを止めて見ても、薬効が無くなったのか、花粉の量が多かったのか、区別できないからだ。
 花粉さえなければ発症しないのは確か。この時期に奄美・沖縄や小笠原に行くと、3日目くらいには完全に症状が消え、戻ったときにはすぐに発症する。羽田空港の上空の「もや」が目に入ったと同時にくしゃみが出たこともある。広島は、芸北地域を除いて、スギが少ないので大したことはないだろうと思っていたが、やはり、この時期には症状が出るので薬とマスクは欠かせない。

多数の雄花を着けたスギ

3月1日の中国新聞6面の[広場]に「少花粉スギの普及急務」という大きな見出しの記事が載った。編集員の杉本氏による記名記事である。内容は、スギの少花粉品種が実用化されたにもかかわらず、普及が遅れている。とりわけ、中国地方、中でも広島・島根両県の遅れが目立つという。ただ、普及しない原因と対策についての踏み込みは物足らない。県の目標がどうなっているのか、それに対する検証がどうなっているのか書かれていない。

新聞記事の翌々日に、日本森林学会から、「花粉症研究最前線」を特集した「森林科学」の73号が届いた。最近の研究性が要領よくまとめられているので、要点を紹介し、広島県の問題点を考察する。

「花粉症研究最前線」の要点

  1. スギ花粉症に関わる国民の経済的負担は、1998 年で2,860 億円と推定、約1 兆円との説もある
  2. 花粉飛散情報は高度化し、一部の地域では詳細な予報がなされている
    • 36年間の継続観察によれば、最近の10年は、以前の約2倍
    • ヒノキ、ブナ、ハンノキ、マツ、イネ科についても実施
  3. 抗ヒスタミン剤の開発・改良、減感作療法の研究
    • アレルギー患者を対象とするため、アナフィラキシー誘発\r\nの危険性の無い治療ワクチンが必要であり、まだ完成していない
    • 減感作療法効果のあるコメの品種も作出されている
  4. 花粉発生源対策としての森林管理(間伐等)
    • 雄花の豊凶に合わせるなどの工夫が必要
  5. 無花粉スギや少花粉スギなどの花粉症対策品種の開発n
    • 「少花粉スギ」の苗はすでに各地域で普及
    • 7 県(富山、青森、福島、新潟、茨城、神奈川、三重)から多様な無花粉スギが選抜されている
    • 無花粉スギには種子ができないので、挿し木繁殖するのだが、単一クローンの一斉植栽は避けたい
    •  「立山 森の輝き」はF1雑種だから、種子で供給できる
    • 遺伝子組み換えによる無花粉スギも作出されている

広島県のスギ林の現状
広島県の森林については「林務関係行政資料」に要領良くまとめられているので、最新の平成24年度版をひも解く:

  • 広島県の森林面積 611,893ha のうち、民有林が563,180ha(92.04%相当)
  • スギ林は48,152ha(民有林の8.55%相当)
  • H18~22年のスギ人工造林の実績は42ha、年平均8.4ha\r\n(ヒノキは、それぞれ、158,5ha、317ha)
  • H18~22年のスギ山行苗需要は134,000本、年平均26,800本、\r\n同期間の生産量は 93,000本、年平均18,600本で大幅に不足

前記の新聞記事による広島県の少花粉スギ苗生産計画、2014~16年度 0本、2017年度1,200本、2018年度 2,100本は如何にも少ない。1haあたり2,000本位は必要である。
 もっと問題なのは、スギ人工造林実績が平均8.4ha しかないという点である。スギ人工林の標準的な伐採年数は40~50年であるが、長期化傾向を勘案して60年としても、毎年800haは伐採・収穫する必要がある。そうでなければ、森林の生態系を適切に維持することはできない。何故か、間伐ばかり強調され、「~間伐材を利用して~」という文言を良く目にする。間伐は植栽を伴わないので、樹種・品種の更改には結びつかない。一時的に草原状態を作り出す皆伐(主伐の一種)がほとんど無くなったことが、地域の生物多様性に悪い影響を及ぼしていることも考えるべきであろう。

念のために付け加えると、既に作出された少花粉・無花粉スギで現在のスギ林を置き替えることには慎重であるべき、というのが私の持論。少花粉品種について、既存のスギに比べて花粉量が**%というときの「既存のスギ」が問題であって、きちんと選抜された推奨品種による「育種苗」か、苗木不足の時代にいい加減に作られた「多花粉・多種子」品種なのかを確かめる必要がある。本来の手続きによって選ばれ、育成された苗木であれば、それ程多くの雄花を着けることはないはずだ。

高尾山頂のカシワ大樹

 これがミシュランガイドの効果というものか。20年ぶり位に登った東京の高尾山の混雑には驚いた。一時期は、私にとっての「ホームグラウンド」でもあった場所。薬王院の表参道となっている尾根道はともかく、吊り橋のある4号路、渓畔の6号路はすれ違う人も少なく、植物観察にはもってこいの場所であった。
 東京の人にとって、「山に登ったことがある」というのは高尾山のこと、高尾山の次は八ヶ岳あたりで、ギャップは大きい。ともあれ、これだけの人数が「自然に親しむ」のは良いことに違いない。舗装道路の傍らで、腐朽の目立つ「蛸スギ」の根、表土の侵食が著しい遊歩道、という問題に目をつぶれば。

高尾山山頂広場の傍にあるカシワの大樹、大正時代に植林されたもの

今回、確かめたかったことの一つは山頂部に植林されたカシワ林の現況である。度々記事にしているように、「かしわもち」に用いるカシワは、西日本には多いが、東京周辺にはほとんど自生していない。首都圏に住む人にとって、国産のカシワの葉を手に取ってみるには高尾山が一番手っ取り早いだろう。ここはかつての御料林(帝室林野局が管理した皇室財産で、戦後は内務省所管の国有林と合併して現在の国有林となった)であって、大正時代には、ケヤキやカツラなど、広葉樹の植林が広く行われた(高尾山の北斜面に残っている)。
 以前は、本数が多く、カシワ林と呼ぶのにふさわしい姿であったが、現在は3本の大樹が残るだけである。しかも、山頂からの展望を確保するためか、ミズナラなどの大木の樹幹、枝がばっさりと切られている。カシワは広場の緑陰樹として残されたようだ。

本編の再見直しは、ニレ科、クワ科について行い。APGⅢ体系も示した。

⇒ 特集-Ⅳ かしわ餅のまとめ

国際生物多様性の日

(2012-05-22 の再掲載)
本日、5月22日は「国際生物多様性の日」である。これは、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)の啓発のために制定され、日本でも多くの関連行事が開催される。
 生物多様性について、現在の私の関心事は広島県・西中国山地の植物の種の多様性と、それを担保する森林(生態系)の多様性である。
 昔に比べて悪くなったという表現が常に求められるようであるが、良くなった点も少なくない。まず、はげ山がなくなり、常緑広葉樹林が立派になってきた。月始めはツブラジイの花盛りで、遠くから見ても存在がよく分かった。岩国の城山に比べ、広島県側にはまともなシイ林がほとんど無かったと記憶しているが、シイの花を見ると、植生の回復ぶりに驚かされる。
 悪くなった筆頭はアカマツ林、こればかりは致し方ない。先駆樹種であるから、元に戻ることはないのだろうが、宮島のアカマツ林は何とかならないものか。明治の山火事後の植生回復より遅いと思われる。
 中国山地で、植物の種類が少なくなったのは、放牧によって維持されてきた草原が森林化したことである。ヒゴタイは何処へ行ったのだろう。冠高原のレンゲツツジ群落もしかり、吉備高原面に点々と名残が見られるだけになった

草原から再生した若いブナ林

草原の森林化は本来の植生に戻ることだから、悪いことではない。上の写真のように、50年足らずで、若いブナ林が再生してきている。草原に生育する植物の多様性は減少したが、森林に生育する植物の多様性は増加しているわけだ。\
 最近の傾向として、植林されたスギ林、ヒノキ林がなかなか伐採されず、新しい植林地がほとんど見られない。針葉樹の植林は、普通、林床植生が少ないので、多様性の減少につながっている。ただし、重要なことは、私たちが必要としている柱材や板材を得るための森林としては、広葉樹林の半分、またはそれ以下の面積で足りるということである。用材生産のため、100 haの自然林を伐採するか、50 haの人工林で済ませて、残りの自然林を温存するか、という選択である。
 人工林は自然保護のための必要悪であるから、収穫できる大きさになれば、すみやかに皆伐して、新たに植林しなければならない。「間伐材を利用して….」というのは、本末転倒。人工林の年間成長量に見合うだけの伐採が行われてこそ、自然林が温存できる。現在の日本は30~40%程度伐採率に留まっている。だから、「日本は自国の森林を温存して、他の国の森林を減少させている」と、各国の自然保護団体から、非難されるのだ。

過密なヒノキ人工林

 上は、アカマツ林であった場所に植林されたヒノキ林。町有林などの財政支援のため、営林署(現在の森林管理署)が植林した「官行造林地」のひとつである。もう少し手入れが良ければ立木の直径が揃い、林床植生も多くなっていただろう。
 適切な森林管理が行われていれば、地域の人工林面積の50分の1程度の面積が毎年伐採されるので、全体の1~2割の面積が草本植物の多い若い林になる。日当たりの良い林道脇にも多種多様の植物が生育するので、生物多様性は高まる。このような場所に、ササユリなどは多い。

もともと、広島はアカマツ林が多く、スギやヒノキの林は少なかった。木材不足を背景に、1960年代に推進された「拡大造林」が拙速であったため、成績の良くない造林地を生み出したということもある。当時は、苗木を背負って急斜面を登り、苦労して手植えをした。高度経済成長以後は労働事情が変わり、林道のない場所は手入れ・収穫が行われなくなっている。
 林道や作業道が作れない場所では木材生産のための人工林は維持できない。きちんと林道を整備して国際世論に応えるべきだ。そうでなければ、自然林に戻すのが妥当であろう。架線集材で採算のとれる大径材だけを伐採・収穫して、後は放置すればよい。専門用語では上層間伐にあたる。小さい木を切る意味は全くない。
 山地に広葉樹を植栽することは厳禁である。自然林によって生物多様性を回復させようという時代に、致命的な自然破壊をするのは愚の骨頂。「なぜ樹木を植える」のか、理由を考えれば解るはずだ。その土地本来の樹木が自然に生えるから自然林と呼ばれる。もちろん、回復(遷移)の速度を速めるために植樹をすることはある。それには、現在の植生の状況を監察して、何が欠落しているのかを診断し、その土地本来の遺伝子を持った苗木を生産した上で行わなければならない。