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特集-Ⅵ 早生樹造林で学んだこと


モリシマアカシアに騙された話(7)早成樹造林の成功例はあるか?

 早成樹の二大横綱、東のコバノヤマハンノキ、西のモリシマアカシアの成果を問われて、「成功した」と胸を張れる人はいないだろう。
 うまい話が失敗する理由は単純、期待と願望が予測と確信になってしまうからである。うまく行かないのはやり方が悪い、つまり担当者の失敗であり、計画のせいではない。だから、失敗例は報告されず、無かったことにされる。これは、どの分野、組織、時代でも同じではないか。

 そもそも、森林の生産力は、太陽エネルギーの量と土壌の養水分の量で決まり、樹種では決まらない。その場所の立地条件を最大限に利用できる樹種がエネルギーと養分の奪い合いに勝ち、最後の姿がその場所の極相になる。これは、放置された自然林でも、植栽された自然林でも同じ。だから、樹種の違いは結果であって、原因ではない。

 立派なスギ林になったのは土地が良かったから、せき悪地にスギを植えても広葉樹林やアカマツ林になってしまう。ただ、極相に至るまでの年月は初期条件により異なり、途中の道すじ(林相)は同じではないので、私たちが都合の良い段階で利用することができる。

 日本は土地面積が少なく人口が多いから、土地生産性の向上を期待する傾向がある。そのため、造林樹種を選び、肥料を施してまで生産性を高めようとした時代がある。私は林学を書籍のみで勉強したから、早成樹に託した希望もそれなりに理解していた。

 農林省林業試験場に入った昭和43年、造林部造林第二研究室に配属され、物質生産に関する調査を初めて経験した。この年に刊行された、只木良也・蜂谷欣二:森林生態系とその物質生産、林業科学振興所.を超える物質生産の教科書は今だに無いのではないか。

 その頃、ゴウタンという妙な言葉を覚えた。年度末の業務報告会の後に、全国の造林系研究室の担当者による会議があって、各地の造林問題を話し合うのだが、「九州のゴウタン**試験地は枯れたのでハイシ。」、、、「北海道ではゴウタン**試験地をハイシ。」という口頭報告に面食らった。「只木さん、ゴウタンって何ですか?」、「あのなあ、ゴウタンというのは、如何に合理的に早く木を枯らすか、という試験だよ。」と、いつもの調子。正しくは「合理的短期育成林業技術の確立に関する試験」、あらゆる知識・技術を注いで、短期に収量を増やす実証試験を国有林と林業試験場の共同試験として行っていたもの。対象樹種は、スギ(地方品種)、アカマツ、カラマツ、コバノヤマハンノキ、フサアカシア、モリシマアカシアである。

 初期6か年分の調査結果が、(研究資料)合理的短期育成林業技術の確立に関する試験報告第1部、林試研報 (233): 1-306. (1971)にまとめられており、https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/233-1.pdf から読める。失敗例は隠されるのが普通であるが、ここには、成功しなかった事例もきちんと報告されている。暖地のコバノヤマハンノキでは虫害、アカシア類では低温障害と早期の衰退に対応できなかった。

 その後も、いくつかの試験地は維持されたので、九州支場にいた私も定期測定に付き合う羽目になった。ただし、いわゆる早成樹は全滅で、残っていたのはスギだけ。
 28年の試験期間を終え、失敗例であっても記録を残すべきとして、森林総研研報 (379): 35-83. (2000)で最終報告がなされた。(https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/379-3.html)

 初回報告書の前書きの一部を以下に転記する。早成樹の考え方が良く分かる。

 近年の日本経済の著しい成長は,わが国農林漁業の近代化への脱皮を強く要求してきた。林業がこれに応えるためには多くの困難があるが,なかでもその生産期間の長いことが一つの足かせとなっている。もちろん,環境や経営方針によっては,長伐期胞業のすぐれている場合があるが,反面,経済的,自然的立地条件と経営要素とが,短期育成林業の成立条件を満足させる地域のあることも否定できない。これらの地域において短期育成林業を経営するためには,すみやかに成長しうる樹種・品種の選択,林地の生産力を高め,かっそれを維持していくための地ごしらえ,植付け、施把,保育,被害防除等に関する諸技術を総合して,一連の技術体系を確立することが必要である。
 この試験は,現状において見とおしの立てうる上述の諸技術の組立を試み,技術改革の指針をうることを主たる目的としているが,素材となる部分技術の研究に資料を提供し,研究の促進をはかることも目的の一つである。

 最終報告書の前書きでは、
 我が国では木材が不足物資であった期間が長く,特に第二次大戦後から1960年代までにかけては,戦後の復興と経済成長の進展によって木材の増産が強く要請された。それを受けて短期間に効率的に高い生産力をあげられる人工林技術の向上を目指した研究の推進が図られた。この研究は,1950年代から1960年代にかけての林業情勢を背景に展開されていた生産力増強計画とリンクする形で,伐期の短縮と生産力の増強を目的として林業試験場と林野庁が共同して全国規模で実施したものである。すなわち,成長の早い樹種,品種を選択するとともに林地の生産力を高め,かっそれを維持していくための地拵え,植え付け,施肥,保育,被害防除などに関する諸技術を総合して一連の技術体系を確立することを目的としたものである。伐期(試験期間)は28年から35年までとし,全国50箇所の国有林に試験地が設定されたが,多くの試験地は途中で気象被害,生物被害,保育不足などにより試験地の廃止を余儀なくされた。今後の被害も予測されること,木が大きく成長するにつれて設計通りの調査を行うには労力を多く必要とすること,試験設計当初の人達がいなくなり,取りまとめが難しくなることが予測されることなどから,本試験は28年目の調査をもって最終報告を行うことになった。

学会誌や書籍に失敗例は載らない。表に出るのは「例外的・幸運な事例」だけである。うまい話を信じてはいけない。


東北地方のコバノヤマハンノキ林


瀬戸内海の島嶼に残るフサアカシア


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